スーパー人間
今日は久しぶりに嬉しいことがあった。というのも僕がこっそり推しているおばさん”木村さん”の笑顔を久しぶりに見ることが出来たからである。
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彼女は原信の店員さんだ。白髪交じりのメガネをかけた温和そうな雰囲気の、至って普通のおばさんである。
いつもパン売り場の横に付随してある、ベーカリーで買ったパンを買う専用のレジにいることが多い。だが、たまに普通のレジでレジ打ちをしている姿を見ることもある。どちらにせよレジにはいるので、彼女にレジを打ってもらうことは出来る。
”木村”という苗字は個人的には曰く付きの苗字で、幼稚園の時僕のことを虐めていた子が”木村くん”。中学の時に入っていた剣道部で、練習中に床で寝だしたり自分語りが激しかったり、他にも行動が奇怪だった顧問も”木村先生”だった。ほかにも僕は”村”が付く苗字の人とは上手くいかないことが多い気がする。
しかし同じ”村”が付く”木村”でも彼女は違う。なんで僕がこんなに彼女のことを推しているのかと言うとそれは単純。お会計が終わってパンの入ったレジ袋を渡しながら「ありがとうございました」と言う彼女の笑顔が素晴らしいのだ。
言ってしまえばそれだけ。でも本当に素晴らしいのだ。ことわざで”笑う門には福来る”というが、彼女は”笑う門で福ばら撒く”と言った感じだ。今日も彼女にパン(海老カツバーガー)の入ったレジ袋を渡される心がぬくぬくして、自然と「ありがとうございます」と口走ってしまった。
では、僕が彼女のような店員側の立場になった時、彼女のような笑顔をお客にばら撒くことが出来るかというと答えはノーだ。
最近まで僕はコンビニバイターだった。
キャバクラかホストのキャッチ。
毎日125円のチューハイを130円を出して買って5円を募金していく人。
コンドームやエロ本を買っていくおじさん。
雨の日だけたばこの35番を買いに来る人。
近所の居酒屋で働いている毎日ホットコーヒーSを頼む社員さん。
裏の居酒屋で働いていて、去り際にお釣りを受け取った手を握り締めて「どもっ」という物腰の柔らかそうな人。
品物をレジに投げるように置いて無言で立ち去っていく人。
コンビニと言うのは色んな人が買い物に来る。そんな多種多様な色んな人に疲れてしまう僕はコンビニ的接客でお客を捌いていた。
「ピンポーン、ピンポーン」という扉が開いてお客が入ってくる音がすると、毎回「はあ。また来たよ。」と思っていた。笑顔なんて二の次。レジに客が来た時僕にとって重要なのは袋をSSS、SS、S、M、Lのどれにするかということと、お客はポイントカードを持っているかということだけだった。
最近、芥川賞を受賞して一時期有名になった「コンビニ人間」という本を読んだ。
その本の中の主人公が”コンビニ人間”と言われるゆえんとは少し方向性が違うけど、僕もコンビニで働いていた時はいちっぱしの”コンビニ人間”になっていた。
はたして、”木村さん”はどうだろう。
言うなれば、笑顔がスーパー。接客もスーパー。物腰の柔らかさもスーパー。な”スーパー人間”とでも言うべきだろうか。やっぱりどうやっても”コンビニ”は”スーパー”には到底敵いそうにない。